スペクトル幾何

書籍情報
シリーズ名共立講座 数学の輝き 全40巻予定 【3】巻
ISBN978-4-320-11197-4
判型A5 
ページ数352ページ
発行年月2015年06月
本体価格4,300円
スペクトル幾何 書影
スペクトル幾何

 本書は「スペクトル幾何」の最新理論に関する本邦初の書物である。
ラプラシアンのスペクトルとは,太鼓のように発音体が発する音の情報のことで,スペクトル幾何とは,「音情報」を研究する数学理論のことである.その最も重要な課題は,「音情報」から発信源の形状を推測・決定することである.本書はこれが可能であることを述べている。

 スペクトル幾何の研究の歴史は古く,1910年のワイルの仕事に始まる。1924年に出版された有名なクーラント・ヒルベルトの「数理物理学の方法」は,当時のスペクトル理論の研究成果を集大成したもので90年経った現在でも愛読されている。クーラントは有限要素法の創始者としても知られており,彼の名を冠したニューヨークにある「クーラント数理科学研究所」は数学のメッカとして名高い。

 本書はこのような背景と歴史を持つスペクトル幾何の,1970年以降から現在に至る最新の研究成果を分かり易く述べたものである。その内容は,ラプラシアンの固有値の連続性と様々な評価,第一固有値に関するリヒネロヴィッツ・小畠の定理,熱方程式の基本解とそれを使った閉測地線の長さの集合を決定するコラン=ド=ヴェルディエの仕事を述べる。負曲率におけるアノソフ力学系とギルミン・カズダンの仕事,ディリクレ固有値問題のペイン・ポリヤ・ワインバーガー型不等式に関する成慶明らの最新成果と「発信源逆探知問題」への興味ある応用も述べる。本書はこのように微分幾何学,モース理論,アノソフ力学系,剛性定理など多岐にわたり様々な数学の分野に跨がる他に類書のない著書である。

目次

第1章 リーマン幾何学の基礎事項
1.1 リーマン多様体
  1.1.1 リーマン計量
  1.1.2 曲線の長さ
  1.1.3 距離
1.2 接続
  1.2.1 レビ・チビタ接続
  1.2.2 平行移動
  1.2.3 測地線
1.3 曲率テンソル
1.4 積分
1.5 ベクトル場の発散とラプラシアン
  1.5.1 ベクトル場の発散,勾配ベクトル場,ラプラシアン
  1.5.2 グリーンの公式
1.6 微分形式のラプラシアン
1.7 曲線の長さの第1変分公式と第2変分公式

第2章 リーマン計量の空間と固有値の連続性
2.1 実対称行列
  2.1.1 実対称行列の固有値
2.2 リーマン計量全体の空間
2.3 固有値の連続性と重複度の上半連続性
2.4 固有値の一般的性質

第3章 最小正固有値のチーガーとヤウの評価
3.1 本章における主たる結果
  3.1.1 正の最小固有値λ2 に対するチーガーの評価
  3.1.2 正の最小固有値λ2 に対するヤウの評価
3.2 co-area 公式
3.3 定理3.4,3.5と系3.6の証明
3.4 定理3.7 の証明
3.5 ヤコビ場と比較定理

第4章 第k固有値の評価とリヒネロヴィッツ・小畠の定理
4.1 R. クーラントの節領域定理
  4.1.1 ラプラス作用素の境界値問題
  4.1.2 R. クーラントの節領域定理
4.2 第k固有値の上からの評価
4.3 リヒネロヴィッツ・小畠の定理

第5章 ディリクレ固有値のペイン・ポリヤ・ワインバーガー型不等式
5.1 本章の主な結果
5.2 予備的なL2 評価
5.3 チェン・ヤンの定理と系
5.4 定理5.6の証明のための基礎的準備
  5.4.1 等長はめ込みと勾配ベクトル場
  5.4.2 等長はめ込みと接続
  5.4.3 等長はめ込みとラプラス作用素に関する補題
5.5 定理5.6の証明

第6章 熱方程式と閉測地線の長さの集合
6.1 1 次元サークル上の熱方程式
6.2 モース理論からの準備
  6.2.1 ヒルベルト多様体内の非退化臨界部分多様体
  6.2.2 閉測地線
  6.2.3 Ω(M)への有限次元近似
6.3 複素熱方程式の基本解
6.4 擬フーリエ変換
6.5 主定理
6.6 複素熱方程式の基本解のもつ性質
6.7 鞍部点法(停留位相法)
6.8 3つの補題
6.9 主定理6.23の証明

第7章 負曲率多様体とスペクトル剛性定理
7.1 ギルミン-カズダンらによるスペクトル剛性定理
7.2 証明の方針
7.3 測地流ベクトル場
7.4 リヴシックの定理の証明
7.5 調和多項式の空間と直交群の実表現論
7.6 対称テンソル場の空間上の楕円型作用素
7.7 主定理7.10の証明
7.8 残された3つの補題の証明
7.9 スペクトル剛性定理7.1の証明

参考文献

索引