中間子原子の物理―強い力の支配する世界― 

書籍情報
シリーズ名基本法則から読み解く物理学最前線 【15】巻
ISBN978-4-320-03535-5
判型A5 
ページ数184ページ
発売予定2017年03月10日
本体価格2,000円
中間子原子の物理 書影
中間子原子の物理

新刊

 本書は,中間子-原子核束縛系を舞台にした,ハドロン多体系の構造や生成反応と強い相互作用に関する研究の入門書である。読者としては,量子力学の基礎を修得済みの物理学を学ぶ大学学部4年生・大学院修士課程1年生を想定している。
 我々が見聞きし体感する日々の現象や動植物の営み等は,突き詰めればほとんどすべては電磁相互作用による電子の運動と重力相互作用が基礎となっている。しかしながら,現代の物理学では,普段は全く姿を見せない強い相互作用が世界を形成する大きな役割を担っており,物質の質量獲得などにも大きく関与していると考えらえている。つまり,我々の身の周りの物質の奥底には強い相互作用が支配するもう1つの世界が隠れているのだ。量子色力学で記述される強い相互作用は電磁相互作用よりも複雑であり,したがって,強い相互作用によって形成される物質や生じる現象は,電磁相互作用が支配している我々の身の周りで見る事のできるものよりも,実はずっと複雑かもしれない。この強い相互作用の支配する世界を中間子-原子核束縛系を舞台に説明したいと考えている。
 強い相互作用をする粒子はハドロンと呼ばれ,原子核を構成する陽子や中性子,湯川粒子として有名なπ中間子などがこれに含まれる。また,中間子-原子核束縛系とは,電子の代わりにπ中間子やK中間子などが原子核のごく近傍を回っている中間子原子(Mesic Atom)や,中間子が強い相互作用のみで原子核内部に束縛される中間子原子核(Mesic Nucleus)などを指している。これらの系を通じて,強い相互作用の対称性の様相,原子核中のハドロンの性質,新しいタイプのエキゾティックなハドロン多体系の構造や性質・生成反応などに迫るのが研究の目的である。
 本書では,中間子-原子核束縛系の物理が無理なく理解できるような構成を心がけており,ハドロン物理学の面白さの説明,基礎的な相対論的量子力学(クライン-ゴルドン方程式など)の復習の後で,π,K,η,η(958)などの中間子と原子核の束縛系に関する研究成果を解説している。直感的なイメージが掴みやすいように,何枚かのイラストのデザインを身近な協力者にお願いした。読者のみなさんにリラックスして楽しんでいただければ幸いである。

目次

第1章 はじめに
1.1 量子力学的な束縛状態と素粒子の研究
1.2 中間子-原子核束縛状態で探る強い相互作用(QCD)
1.3 この本の構成について

第2章 相対論的量子力学入門
2.1 自然単位系
2.2 相対論的量子力学の初歩-クライン-ゴルドン方程式-
2.3 相対論的運動方程式のクーロン束縛状態の解

第3章 ハドロン物理学の面白さ
3.1 物質の階層構造と強い相互作用の支配する世界
3.2 クォークの世界とハドロンの世界
3.3 代表的な軽いハドロンの基本的な性質
3.4 中間子-原子核系の研究で現れる関係式

第4章 中間子-原子核束縛状態の構造と生成
4.1 原子核の構造-基礎的な量子力学を用いた原子核の描像-
4.2 中間子-原子核束縛状態の構造-普通の原子と何が違うか-
  4.2.1 強い相互作用の効果-中間子-原子核間ポテンシャル-
  4.2.2 現実的な電磁相互作用
  4.2.3 中間子-原子核系の運動方程式とその解法
  4.2.4 中間子-原子核系の構造-一般的な性質-
4.3 中間子-原子核束縛状態生成法1-X線分光法-
4.4 中間子-原子核束縛状態生成法2-欠損質量による分光法-
  4.4.1 2体反応の運動学の基礎-物質の性質や相互作用に無関係に決まる散乱の様子-
  4.4.2 欠損質量分光法と不変質量法
  4.4.3 有効核子数法による中間子-原子核系生成断面積の計算
  4.4.4 欠損質量分光法に関する補足

第5章 中間子-原子核束縛系-最新の研究から-
5.1 深く束縛されたπ中間子原子
5.2 K-中間子原子とK-中間子原子核
5.3 η中間子原子核とN(1535) 共鳴-核子のパートナー?-
5.4 η(958) 中間子原子核とη(958) 中間子の質量変化

第6章 おわり